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テロワールは、いつから「味わえる」ものになったのか
ナチュラルワインの土台を読み直す

2026年6月25日
ナチュラルワインを語るとき、中心に置かれる言葉があります。それが、テロワールです。
低介入、有機栽培、野生酵母発酵、亜硫酸の抑制。これらの実践は、しばしば「土地の個性を邪魔しないため」と説明されます。つまり、ナチュラルワインは、土地の声をできるだけそのままワインに表すものとして捉えられます。
しかし、その前提となるテロワールは、いつ、どのように生まれた概念なのでしょうか。
キャプランワインアカデミー × GuildSomm コラボ講座に向けて、今回のコラムでは、ナチュラルワインを支えるテロワールを読み直します。
歴史をたどると、テロワールは必ずしも最初から肯定的な言葉だったわけではありません。かつて goût de terroir は、価値ある土地性ではなく、不快な土壌由来の味を指すことがしばしばありました。
現在、テロワールという言葉は、土地の個性、真正性、品質の源泉、文化的アイデンティティを示すものとして肯定的に使われます。しかし、テロワールが、避けるべき田舎っぽさとして認識されていた時代があったのです。
これは非常に重要です。なぜなら、現在のテロワールという考え方は比較的新しいものだということだからです。そしてそれは、テロワールを土台にしているナチュラルワインも、モダンなカテゴリーではないかという考えに接続します。
では、なぜテロワールは、今日のように origin や authenticity を示す言葉になったのでしょうか。それには、フランスにおける AOC 制度と typicité が手をつなぐ過程が決定的に重要となります。
1974年、フランス全土で AOC ワインへの官能評価が義務付けられます。その時、「その土地らしさ」、すなわち typicité を表現できているかということが、品質評価に制度として入ってきます。
他方で、1970年代には terroir がフランスで復権していきます。terroir は、国民的ルーツ、真正性、そしてグローバル市場再編への抵抗と結びつけられる、愛国的な言葉として地位を向上していきます。
その流れの中で、ワインの世界でも、テロワールは大きく意味を変えていきます。昔からある言葉だった terroir が、typicité や AOC と制度的に接続され、ワインの中に感じられる地域性を説明する言葉になっていったのです。
さらに、20世紀後半になると、テロワールは国際競争の中で「差別化の言葉」としても力を持ちます。品種や醸造法だけではなく、「どこから来たワインか」を感覚的・文化的に説明する枠組みとして使われるようになりました。
1990年代以降には、ミネラルとしてまとめられる flint や chalk といった感覚表現が土地のイメージと結びつき、テロワールの語りはさらに強化されます。つまり、テロワールは自然に存在するだけでなく、制度、市場、言語によって価値化されてきたモダンな概念なのです。
ここで、ナチュラルワインの見え方は大きく変わります。
ナチュラルワインは、単に昔のワイン造りへ戻ろうとするカテゴリーではありません。その土台にあるテロワール自体が、歴史的に構築され、AOC、typicité、官能評価、市場、感覚言語によって現代的に形成されてきたものだからです。
さらに言えば、ナチュラルワインは、現代的に形成されてきたテロワール観を基盤にしながら、それをさらに押し広げようとするカテゴリーです。
土地、栽培、醸造、そして消費者が何を「自然」と感じるのか。ナチュラルワインは、そのすべてを問い直す実験場でもあります。
テロワールは、昔からそこに固定されていたものではありません。どのように語られ、認識され、評価されるかによってその姿を変える、妖精のように取り留めのない概念でもあるのです。
次回の GuildSomm とのコラボ講座では、テロワールをはじめとするナチュラルワインの土台を一つ一つ読み直していきます。
GuildSommコラボ講座のご案内

Natural Wine beyond Romanticism
伝統ではなく、未来への実験として読む
2026年8月8日(土)13:00~15:00