ワインの豆知識

物語るワイン

2026年2月18日

かのフランシス・フォード・コッポラ監督は「昔、映画の登場人物は皆、煙草を吸っているのが常だった。現在ではワインなしではディナーのシーンを撮るのは不可能となった。」と述べています。

コッポラ監督は映像の細部(衣装、家具、小物)にこだわることにより観客の画面への没入感を生み出すと言われています。ゴッドファーザーシリーズでは食事の場面でボトルやグラスは一家の富や関係性を表現しています。

画面に登場するワインが、その場面を説明するちょっとした役割を担っているものを名作映画の中からご紹介しましょう。

まず不朽の名作1953年「ローマの休日」
ローマを訪問した某国のアン王女(オードリー・ヘプバーン)は儀礼的な行事続きにうんざりして大使館を抜け出し、一人でローマの街に出て行きます。道端で居眠りをしてしまった王女はアメリカ人新聞記者ブラドリー(グレゴリー・ペック)に出逢います。当初、彼は王女に気付かなかったのですが、翌日彼は王女のプライベート特ダネを狙うことにします。お互いの身上を明かさぬままアン王女が希望する自由なローマでの一日を共に過ごします。

アンの最初の希望はカフェに立ち寄ること。屋外のテーブルについたアン王女にブラドリーが「何を飲む?」と聞くと「Champagne」と即答。この時のブラドリーのギョッとした反応は見ものです。しがない(お金がない)新聞記者はシャンパーニュ代の持ち合わせも無く、心の中で「王女は飲むものが違う」と思ったのかもしれません。王女は当たり前に答えただけですが。

一日中、ローマの街を楽しんだ二人は別れる前にブラドリーのアパートに立ち寄ります。最初王女がここはエレベーター?と聞いたぐらい狭い部屋ですが、そこには彼が仕事が終わって帰った時にコップで引っかける赤ワインのボトルがあります。藁苞を纏ったキャンティです。当時、イタリアいえ世界で一番有名なイタリアワイン。元は農民が畑に自家製ワインを詰めて持って行き、木にぶら下げても割れないように藁が巻かれたと言われる、庶民のワインです。

惹かれ合う二人ですが、二人の「格差」を普段のむワインが物語っています。

もう一本、やはりシャンパーニュとキャンティが登場する名作をご紹介します。
007シリーズ第2作1963年「ロシアより愛をこめて」
世相を映した物語の設定がなされるのが多い007ですが、今作品では1960年代の東西冷戦構造が背景にあります。興味深いシーンがオリエント急行内で繰り広げられます。
イスタンブール発欧州行きのオリエント急行の食堂車で援護に来た諜報部員と食事を共にするシーンです。

舌鮃のグリルに合わせてボンドは「ブラン・ド・ブランのボトルを」と注文します。ウェイターが同席している男性(諜報部員になりすましている)にも飲み物は?と聞くと「キャンティ」と答えます。ウェイターが「白?」と聞き返すと「いや、赤」と答えたのです。テーブルに運ばれたシャンパーニュはTATTINGERのプレステージ「Comtes de Champagne」とキャンティの赤ワイン。イギリスのMI6諜報部員のジェームズ・ボンドはシャンパーニュ好きでもあります。

その後、コンパートメントでボンドが油断した隙にその男に襲われ、やられます。ボンドは「魚に赤ワインか・・・気付くべきだった・・・!」男は勝ち誇ったように「酒には詳しくても、跪くのは貴様だ」と。
実はこの男はソ連のスパイではなく東側出身の殺し屋、宿敵の悪の集団スペクターの一員だったのですが、ジェームズボンドの洗練された英国紳士の振る舞いと対比させるのに「魚にキャンティ」と、キャンティが登場したのです。

キャンティは赤ワインのみが名乗れます。わざわざウェイターが聞き返し、魚を食べるのに赤ワインを注文した、ということを強調しています。
何だかキャンティは損な役割を担っているようですが、それだけ誰もが知るワインだったのです。

トスカーナのフィレンツェとシェナの間に広がる美しい丘陵地帯でキャンティは中世の頃には造られていました。軽やかで、サンジョヴェーゼ品種と地元の品種がブレンドされたトマトソースとも相性の良い日常のテーブルワインで人気を博します。1967年ChiantiはイタリアでDOCGに認定されます。世界的なブランドに成長したキャンティは大量生産体制になり、良質でないものも流通し、いつしか「安かろう、悪かろう」というイメージを負ってしまいます。80〜90年代の赤ワインブームやポリフェノール重視の濃い赤ワインがもてはやされるようになるとますますそのイメージが定着してしまします。

伝統的な産地は1996年キャンティ・クラシコとして独立したDOCGになり、より高品質なワイン造りを目指す伝統的なワイン生産者達は、熟成するポテンシャルのある赤ワインとしての道を邁進します。ブレンドに白ブドウを使用せず、サンジョヴェーゼの比率をあげる、など、最高品質を目指します。より長く熟成期間を経たものをキャンティ・クラシコ・リゼルヴァ、そして2014年にはキャンティ・クラシコの最高水準に、より厳しい規定のグラン・セレツィオーネを指定します。何十年も熟成するキャンティ・クラシコもあり、今やキャンティは幅広いスタイルで私たちの食事に寄り添い、そして楽しませてくれています。

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