シャンパンの容量

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シャンパンの容量

2026年1月12日

十数年というもの、私の心の片隅には、専門家にはとても言えないような、ちょっとした仮説が住みついていた。シャンパンの容量は、普通のスティルワインより少ないんじゃないか、という仮説だ。

出発点は単純に感覚だ。シャンパンの栓を抜いて、二杯ほど注いで、ぐいっとひと口飲む。すると、気がつけば一本まるごと消えている。まるで残りの大半を、どこかの天使がこっそり飲み干してしまったようだ。

もちろん、理屈もある。シャンパンは瓶内二次発酵をするから、内部の圧力はだいたい6気圧になる。発酵の途中で瓶が破裂しないように、ガラスを厚く作らなければならない。そうなると瓶の内側の容積は、自然と小さくなる。さらに、シャンパンの瓶の底の凹みが通常のワインよりも深い。あの部分の量はもちろん中身には入らない。つまり、外観はスティルワインより大きくでも、内側は実は狭いという理屈だ。

これは、世界初の仮説だから、私が自ら検証しなければならない。実証するために、ちょっとした実験をすることにした。ルイ・ロデレールの空き瓶を一本取っておいた。私がシャンパンの中でも最も瓶が小さいと感じるブランドだ。それからピノ・グリージョを一本飲みきって、そっちの瓶も確保した。ピノ・グリージョの瓶に水道水をいっぱいに満たし、それをシャンパンの瓶に注ぐ。もしあふれたら、私の仮説が成立ということだ。

実験開始。水を注ぐと、シャンパンの瓶の水位はじわじわと上がり、ピノ・グリージョの中身はゆっくり減っていく。最後の一滴が落ちるころ、シャンパンの瓶はちょうど首のあたり、あの錫紙が巻かれているところまで、ぴたりと満たされた。驚きながら、私の「シャンパンの容量は少ない説」は、あっけなく崩れ落ちた。

それでも、やっぱりシャンパンの瓶って小さく感じるんだ。どうしてあんなふうに、一口飲むとすぐ無くなってしまうんだろう。跳ねる泡は、どこか軽やかな音符みたいで、舌の上で楽しくに踊りまわり、心をどうしようもなく甘く揺さぶるのだ。

美しいものはいつだって儚い。美しいひと、秋という季節、恋というもの、そしてシャンパン、どれも長く手の中には留まってくれない。

最も良いプレゼント

ワインの豆知識

最も良いプレゼント

2025年12月22日

いつも年末になると、たくさんの友人からワインの相談が入る。お客様とか、親しい人にワインを贈りたいんだけど、何を選べばいいかわからない。大抵の場合、私の答えは、わからない時は、シャンパンを贈ればいい。

すると友人は言う。「でも、相手の人が、赤ワイン・白ワインを飲んでいる姿しか見たことありません」と。それでも、私はシャンパンを勧める。そこには、いくつか理由がある。

まず、贈りものというのは、相手の「普段の生活の延長線をそのまま先まで伸ばす」ためのものではないと思う。思いのある相手に何かを贈るというのは、相手の生活にひと握りの光をまき散らすという魔法を使う特権だと、私は思っている。普段飲んでいる缶コーヒー、スーパーで買っている弁当、ティッシュボックス、普段着ているユニクロのシャツ、もちろんコスパは高い。だけど、贈り物としてもらった瞬間に、せっかく相手の日常がバラ色に変えるささやかな魔法を使える場面なのに、魔法を使わずに済ませてしまうのは、やはりもったいない。

では何を贈ればいいか。好きだけれど、普段は自分では買わないものをもらったとき、そこに贈り物らしい喜びがふっと立ち上がるではないか。自分で買わない理由はいろいろあるけれど、なかでも多いのが「高いわりに、消耗品」というものだ。シャンパンは、まさにそういう存在だ。赤ワインみたいに翌日へ持ち越すことができない。翌日に残しても泡は逃げてしまい、最初の煌めきは失ってしまう。だから一回の消費コストがどうしても高くなる。結果として、人は日常用には自分にシャンパンを買うことが少ないでしょう。でもやっぱり、たまにはシャンパンを飲みたくなるよね。

じゃあ、シャンパンが嫌いな人はいるのか。もちろん「みんなが好き」とは言えないけれど、嫌う人は実際にあまり見かけない。歴史上の有名人たちも、シャンパンのこととなると、言葉が滑らかになる。ココ・シャネルは「恋をしているときと、していないときに飲むわ」と言い、ナポレオンは「勝ったときはそれに値する。負けたときは、それが必要だ」と言った。チャーチルは「シャンパンに出会うと、私はどうしても屈してしまう」と告白し、マーク・トウェインは「多すぎるのはよくないが、シャンパンだけは例外だ」と軽く開き直った。フランソワーズ・サガンは「シャンパンには、人生はまだ悪くないと思わせる魔法がある」とまで書いた。こんなふうに、男女を問わず、年齢を問わず、多くの人が胸の内でそっとシャンパンを愛していた。

クリスマスや年の瀬に、何を贈るべきかわからなくなったら、そのときは迷わず、シャンパンをお勧めする。贈られた人はきっと、いつもより少し華やかで、明るい一日を過ごすだろう。